僕はなにがしたいんだろう。そんな時に僕は夢の中にいる。ただ広い湖の上に、安っぽいボートに乗って揺られている。空は暗い、というより黒い。たまにどれくらい遠いのかもわからないけど星が見えるよ。遠くに岸が見えたり見えなかったりするし、家があったりなかったりする。木もたまにあってそれは大概が針葉樹だ。
 この世界は果てしないほどに静かで、なのに孤独さは感じない。
 水面が揺れる音。波紋が畝る様。謎の明かりが照らしている黒の世界は、沈黙過ぎる空間に響くノイズさえ存在していない。僕はそこの安っぽいボートの上で膝を抱えて座っているのだ。顔を埋めたり、空を見上げて星を見つける。

 実は ここ は一人じゃない。僕はたまに岸に着いて歩くことがある。岸には案外簡単に着けるんだ。そうすると、小さな小屋、テンプレのような木、椅子に座って遠くを眺めてる 彼女 に会うことがある。こちらを一瞥してはまた遠くに向き直す。僕も特に話すわけでもなく彼女の前をいつも通りすぎるだけ。別に仲が悪いわけじゃないと思う。目で合図しているようなものだ。彼女がどう思ってるか知らないけど、僕達はそんなに悪い気分じゃないからきっとそうなんだろ う。
 他にもいるのは知ってる。知ってるけどなんとなくだ。知ってるだけ。どこにいるのかよくわからない。でもどこかにいるらしい。らしい、というよりわかるんだ。この世界は二人きりじゃないって。そう望んでいるのかもしれない。この世界は夢だから。

 僕は覚めない頭、動かない四肢、開かない瞼で寝返りを打ち続ける。フラフラとする体が絶えず留まっている。こんな肉体なんて捨てたい。捨てたい。
 自分が何をしたいんだかわからなくなった時、夜を待って、真っ暗な時に、また僕は夢枕に潜り込んでいく。本当は夢なんかじゃない夢の中へ。僕だけの夢へ。