夏の溜め池

大好物のチョコ味のホームランバー
32℃を記録した温度計
燦々照りつかして溶ける
甘美な甘味に涎が垂れて
ソイツを肴に麦茶を飲み干す

蟀谷(こめかみ)を伝う暑さの象徴
ワイシャツで拭う薄汚れた袖口
揺蕩う水面に波乗る灯籠
白日の空より高くなった夜の道を

居所を探して飛ぶ羽虫の群れと
共に還る夏の日が
僕らが流し溜め込んだ濁る池の水を
思い出や優しさなんて言葉に濾して茶化して
火を灯して終わりにするだけなら
記録されない記憶なんて残酷なんだよ


噴水の水飛沫に癒されて弁当をつつく
峠を越えた陽にもまだ目を細める
溶けて赤色に混ざって不味くなったかき氷
飲み干して真っ赤になった口の中 イチゴ味

陽炎の彼方で浮かぶ軽自動車の形
排気ガスと工場塔の融和した景色
氾濫して飲み込まれる憧憬の椚
駆ける速さに足がもたついてく

飲み場の水を霧にして飛ばして
虹をくぐった夢が
時計の針に押されて雫が頬を伝う
濡れた髪から垂れたふりして泣いていた
シロップみたいな見たことない原色
駆けるより遅く揺らいだもう灯せぬ光


知っていたけど知らない顔で
君が作った雨雲に打たれながら帰る
二人で作った夏の溜め池
スマホで写真に収めて
最期の遊びの約束
指切りげんまん
また穏やかな川の公園で


今年もまた細波へ浮かべた明るさは
画になる素敵な思い込みだ
君がたとえばあの日と変わらないなら
見えなくなる頃には飛び出してるよな
落ち着きがなくてもう還るんでしょ
ホームランバーのバニラ味を用意しとくよ

約束だよ
また夏休みのこの日に会いに来るよ