爪切り


わたしたちが
仕組みも知らないままに
使っている危うげなものがある
電子レンジでなんで温かくなるのか
煌めく板がなんで電気を作るのか

ルールブックなんてない
川に小石を投げて向こうの方まで飛ばしたら勝ちだとか
自分が納得する目標を建てて
生きる生きないとか
無かったろう

構造も知らない
周期表もいらない
エビデンスのない紙を大事に持っている
それは雨に濡れればふやけて
火の粉に触れれば穴ができて
足手まといだけど知らずに重宝する
よくわからないまま尊くて
たまにアクセルになって
理由はわからないけれど離せないでいる


描かれた文字や
あしらえた色彩も
自分の好きに描いているけれど
取扱説明書には書いてない
そんな使い方があっただなんて
原因を追求しなくちゃ、と大人は慌てる

ねぇ
河辺を隔てて
壁を隔て
いつから無敵のバリアーが
わたしたちには備えられてて
その危険な仕組みを
こっそり教えてよ
無意識に使ってるこのバリアーの
その仕組みを教えてよ

賢くなればなるほどに
考えれば行き着く思考が
答えを決めつけられるよ
設計図を描くワクワクを「めんどくさい」とペケを射つ
爪切りは梃子の原理で
花火はピカピカが燃えて
やりたいことをやらないのは未来のため
よくわかってないけどそれっぽいこと言ってる
大切な紙はいろんなものと一緒に
クリアファイルに挟んで袋に入れて部屋の隅
遠目に恨めしそうにたまに眺めてる


丸めた紙で忍者ごっこをしていた
ヤツが目を光らせながら
塀の陰から物音を立てずに
懐から小刀を抜き出し
刺し殺さんとする

わたしはソイツにクラッカーを鳴らして反撃してやりたい
驚かせて歓迎して遊びたい今でも

宛のない紙飛行機だっていい
紙を引っ張り出して折ってみよう
そういえばなんで紙飛行機は飛ぶのかな
追い風のある日に飛ばしてみよう
わたしの幼い夢はブースターになるのかな
上書きした未熟なワガママは重荷にならないかな
弧を描き
風を味方に
タイミングや順番なんかわからない
頬で感じるんだ
今度は見逃さないように
出航時刻午後11時のフライトで