おかあさんのて



ぼくは おかあさんのおおきくてやわらかい
て がすきだった
いつだってさみしくて
ひだりのてと みぎのてで
おかあさんのひだりのてを
つかんで ひとりじめした
ひとりじめしたきがした


ふとそんな頃のことを思い出した
すれ違った手を繋ぐ親子のせいだ
憧れより感傷が
下げた頭(こうべ)の首輪になる
ぶら下がって慢性的に肩が凝る
いやこうやってスマホを打ってるからかもしれない

どれだけの素直な気持ちも
煩い喧々諤々の一粒に潰されたことに
好きになれる隙が亡くなっていく

宵闇の布団の中で
母の腕の中で丸くなってた
焼き切れるほどに回したフィルムが
焦げた箇所を此れ見よがしに主張してくる
全て燃えて無くなってしまえ
闇の中の光を探してわざわざ自分で作ってる

好きだった気持ちを思い出しても
魔法を信じていた頃のノートを見返しても
その自分に戻れず現在の自分が続く
続く


おかあさんの おおきくて あたたかい
て がだいすきだった
いつだってさみしくて
ひだりのてと みぎのてはいつも
ふさがってた おかあさんのて
ほめられたくて しずかにしてた
そのてでなでられたかった

あのときに ぼくでも わけわからないくらい
こわかったときに
えらいこだったぼくのなきむしが
まるこく鳴いてたときに
おかあさんの えらいこだったぼくが
えらくなくなったときに

ぼくのおかあさんは
ぼくのおかあさんの て は
ぼくのおかあさんは

ふさがってた