三月の雪



春の嵐が追い付く前に
「まだいるよ」と耳に触れる襟足を
声変わり前の季節の吐息が捕まえる

薄手になる服装と
色づいていく街路樹に
頼み込むみたいに頬擦りしているんだ

駆け足で歳暮の喧騒は過ぎ
集い手を叩く音はまだ響いてる
マフラーと手袋をぽとり落としたのを見て
あなたは何かを察したんだね


三月に降った雪
離れていくのが寂しくて
涙をこぼした姿に重なった


冬枯れに萎れて黒づく木々に
負けじと華やぐ街の景色
くるりとつむじ風を楽しそうにビルをすり抜けていった

照らされた髪の影になる顔を
生い茂り始める染井吉野が覆い隠してく
「また同じ時間を過ごそう」と嘘ついて
夢は陽の明るさで溶けていった
雪は頬で強がって溶けていった