少年は夏が好きだった


夏が近づくほどワクワクしてた
汗ばむほどに生きている実感がするんだ
一緒に水を滴らせるペットボトルを相棒に
少しずつ暑くなる日差しが呼吸を奪う

夏が来ることを楽しみにしていた
大好きなアーティストが夏の詩ばかり書くから
イヤホンと一緒に夏陰を歩く旅に出る
もう直に海岸の香りがする

狂いそうなくらいに暑い太陽のせいで
湿め切ったTシャツを脱ぎ捨てて
シャワーを浴びて薄着で夜風に当たる
少年はこの瞬間が好きだった

堪らないほど汗をかいて
ぬるくなった麦茶を飲んで
吹っ切れたように自転車を飛ばした
少年は夏が好きだった


蝉の鳴き声に混じって思い出した
苦笑いが貼り付いたフィルムは真夏日に焦げた
火を当てたように黒に染まった服を着ている
アスファルトの上を彷徨うゾンビみたいだ

陽炎と耳鳴りと懐中電灯
子供の頃から見慣れていたはずなのに
いつから消魂しくなったのだろう
少年はそれが好きだった

暑さのせいだと愚痴を溢して
茹だる人混みのせいだと擦り付けて
コンクリートを嫌いになって
少年は夏が好きだった


汗ばむほどに生きている実感がするんだ
少年は夏が好きだった
大好きなアーティストが夏の詩ばかり書くんだ
少年は夏が好きだった

ああ、半袖半ズボンで走り回りたいな
なあなあで過ごしている毎日に冥利を受けたいな
頑張っているんだって自信を持ちたいな
何かに汗をかきたいな

自然と汗が出るから努力をした気でいられるんだ
少年は夏が好きだった
夏を理由に何処かに出掛けられるんだ
少年は夏が好きだった
だから少年は夏が好きだった


今年も夏が来る
君が好きだった夏が来る
君が暮れた夏が来る
君がいない夏がやって来る