ケロイド


ピンク色のケロイドを
絵の具で表現するには
何の色を使ったらいいだろう

汗と血が滲む赤か
顔を塗り固めるベージュか
何もなかったことにする白か

時間が経ったらどんな質感に変わるだろう
水で薄めたら自然なものに近づくかな
美術室の丸時計が6時を指す前に
なんとか完成させたい


小さい頃に躓いてつけた切り傷を
勲章みたいにして駆け出す青年を描きたい
報われたい

きっと頬を伝う透明な汗を拭って
色度図をあしらえためちゃくちゃ色の
お買い得な自販機でポカリスエットを買って飲むんだ

彼が口にしたものが彼の傷を治して
目にしたものが彼のパレットを
拡げていく 埋めていく 洗ったらまた埋めて
いつか笑い話になる


虹よりもたくさんの絵の具が
彼の好きな色になったその色が
ケロイドになったその傷口を
痛くないように守りながら
生きてくれたらいいな
筆洗バケツの水を替えた


ピンク色のケロイドを
絵の具で表現するために
もう少し時間をかけて考えよう

時間はそんなにはないけど
チャイムが鳴ったら明日にしよう
そんなに早く治るものじゃないしさ
傷口なんて